3.海 前編

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「守澄さんと藍瀬さんって啓とバイト同じなんだっけ?」 「七海と雨音で良いよ。啓と私はバイトは同じくらいにはいって、雨音はちょっと先輩って感じ」 「へえー!そうなんだ!啓ってバイト先でどんな感じなの?やっぱうるさい?」 「うん、賑やかだよ」 話しかけてくれたのは茶髪でセミロングの可愛らしい女の子で、それをきっかけに他の女の子達も話しかけてくれる。久々に七海以外の同年代の子と話したから少し緊張はしたけれど皆良い子ばかりで、それで、みんな誰かしら意中の相手がいるらしい。最初に話しかけてくれた子はどうやら啓を狙っているようだ。 「恋してる女の子って見ててほっこりするよね」 「そういう雨音はどうなの?」 「私あんまりそういうのは興味ないかな」 「え、意外!雨音ちゃんモテそうなのに・・・運転してた車に乗ってたのほぼ男だったし誰かいたんじゃない?助手席は女子だったの?」 「清明くんだったよ、隣」 「え、セイメイ?」 「せいめい?」 「ああ、清明のあだ名なの。セイメイって読めるし、あいつおばけ見えるとか噂あってそっから来てるの。普段回りと関わらないし今日もなんで来たのかわからないけど」 「あんな変な奴呼ばなくても良いのに、どうせ啓でしょ」 セイメイ、と言われてわからない顔をしていると一人の子が説明してくれた。それから出てくる陰口は聞いていて気分の良いものではない。七海もあまり彼を良く思っていないのか頷いている。 「そうかな?確かに少し変わってるけど、悪い人ではないと思うよ」 「雨音、あんたアイツと何かあるんじゃないでしょうね。やめなさいよあんなへんな奴。おばけだのなんだの、いるわけないし頭おかしいんだよ」 七海が晴太くんに否定的な言葉を吐いたとき、私はなんだか自分が言われたような気がしてなんともいえない気持ちになる。私には霊感はないし実際目の前で見たことなんてないけれど私は二回も彼に助けられている。啓もそれを知っているし彼もまた信じている。
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