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「守澄雨音だろ、覚えてる」
「人の名前覚える気あったんだね・・・意外・・・」
「アンタは面白いからな」
「その面白いの意味が嫌な言葉にしか聞こえないけどね!お茶飲むからこれで炭あおいでおいて!」
なんだかまた嫌な話に行きそうだったので慌てて話を逸らすと、彼はすごく嫌そうにうちわを受け取ってぱたぱたと炭を扇ぎだした。私はそれを横目にお茶を飲んでいたけど、着替え終わった女子達が走ってきたのが見えて彼の手からうちわをさらった。
「もう男子着替えるみたいだし行って来なよ晴太くん」
「・・・おー」
相変わらずの返事の後に彼はのろのろと啓の隣に並んで歩いていった。私はパタパタとうちわを動かしながらお茶を半分くらいまでいっきに飲み干す。
「雨音」
「あ、七海」
「さっきはその、ごめん言いすぎた」
「いいよ、気にしてない」
「雨音がああいうこと言うの嫌なのわかってたのに、つい」
「誰だって言い過ぎることはあるよ」
私が逃げるように出て行ったから気にしていたのだろう、七海が謝りにきてくれた。私は正義感とかとういうのと関係なくあまり人を悪く言うことが無い。今となっては良い人なのかもしれないけど自分のことは良くわかっている。以前は誰かを悪く言えるほど興味がなかったどうしてそうだったのかなんて覚えていないけど、何故か無意識に人と一定の距離を測ってきたから悪口を言えるほど人を知ろうとしなかった。今はもちろんそんなことはない。
啓の悪いところも七海の悪いところも指摘できる。二人が変えてくれたのかもしれない。
「人には相性もあるんだから、そういうときもあるよ」
「雨音は清明と仲良いの?」
「仲良いってわけじゃないけどお世話になったりしたから」
「ふーん・・・好きなの?」
「なんっで、そんな話になるの!なんでもないったら!」
七海の発言に思わず飲みかけていたお茶を噴出すところだったけど、確かに彼みたいな少し代わった人と関わるくらいだからなにかしらあると思われても仕方が無い。
ぶんぶんと首を振って否定していると他の女の子たちも「そっかよかった・・・」と言っているものだからますます晴太くんの普段の様子が気になる。
「雨音ちゃんにはもっと良い人がいるよ!今日頑張ろうね!」
「あ、う、うん・・・」
恋する乙女は急に止まれないらしい。
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