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「小柳さん」
帰りのホームルームが終わり、帰ろうとした私の背中に、そう呼びかける者がいた。
クラスの端にいつも一人でいる、担任の先生までもがたまに名前をど忘れするほどの存在感のない私の名を呼ぶ者など、かなり珍妙な人だ。
私は声をかけた主を軽くディスりながら、その相手を確認しようと振り返った。
しかしそこには、私のクラスメイトであり、私と隣同士の席でありながら、私とは一切の関わりをもたない彼の姿しかなかった。
奇妙なことに、彼は私の前に立っており、まるで私に話しかけでもするかのように、こちらに顔を向けていた。
完璧に目が合ったが、まさか彼が私に何か用があって話しかける、ということはまずないだろう。
きっと私の存在感がなさすぎるせいで、彼の輝かしい目には私という人間の存在すら認識できないに違いない。よって彼は今、私の姿を通り越して壁を見つめているのだ。
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