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一 自称神様拾いました。
ハルさんが亡くなったという知らせは、薫(かおる)の凪いでいた日常に波紋を落とした。
ハルさんというのは、薫の住む七森町内の一角にひっそりと、しかし目を逸らせない染みのように存在していた屋敷の住人だ。
夫に先立たれ、子供がなく、一人暮らし。広い屋敷の管理には目に見えて手が足りていなくて、じわじわと確実に朽ちていっていた。
訃報を聞いたとき、家の寿命と同時にハルさんの寿命が切れたようにも思えたものだ。
「孤独死、かあ。それは寂しいよねえ」
ジャージに身を包んだ薫は、軍手と鎌とマスクと雑巾、そして自治体指定のゴミ袋の入ったトートバッグを脇に抱えて、ハルさんの家に向かって歩いていた。
ハルさんの家は、いわゆるゴミ屋敷。存命中はこどもたちにお化け屋敷だと揶揄されるような、やたら広くて、その分手入れの行き届いていない家だった。
庭の樹木は伸び放題。雑草も生え放題。壁は剥がれて、屋根は一部瓦が剥がれ、凹んでいた。
害虫、害獣。隣家の悲鳴は鳴り止まなかったが、ハルさんは耳を貸さなかった。
だからだろうか。自治会の動きも早かった。
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