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眼鏡がないだけなのに瑛太じゃないように思えて、妙にドギマギする。動揺が隠せないまま、薫は尋ねた。
「ど、どうしたの? 眼鏡、壊れた?」
だが、彼の手に握りしめられている眼鏡は、一見異常はなさそうだ。
「手を貸せ、というのが聞こえなかったか?」
硬めの口調に戸惑っていると、瑛太は自分から薫の手を握って立ち上がる。予想よりも大きな手は、なぜかひどく冷たかった。
瑛太が女子の手をにぎるような男子ではないことを薫はよく知っていた。
体育祭のフォークダンスでも、手をポケットに入れたままで女子に呆れられていたくらいなのだ。
違和感が体に浸透していく。頭の何処かで警鐘が鳴り、体温が下がっていく。
「あなた、だれ」
疑問が口から漏れる。
「…………わたしは、誰だ?」
これはヤバイと薫は顔をひきつらせた。
頭でも打ったのだろうか。それで記憶を失ったとか。
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