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「そうだ。神の仮住まいのために、人間が建てたものだ。そなたが壊したのだろう?」
裏返った声で言い訳する。
「い、いえ! 草を抜いていただけで――」
埋まっていたアザミを引き抜いただけだ。
その反動で崩れ落ちたのだけれど、これはまさか弁償しろとかそういう話だろうか。
(お社とかっていくらするんだろ……一万二万じゃないよね。家を建てるほどじゃないだろうけど車くらいはするんじゃあ……)
現実的に考えはじめた薫だったが《何か》が、
「弁償はいらぬ。そもそもわたしの名前がわからなければ、祭神がわからぬということだ。社を建て直そうともそれは我が宿ではありえぬ。そして仮宿を通らねば、天界に戻ることもできぬ」
と心を読んだような事を言ったので目を剥いた。
「じゃあ、どうすれば?」
「早急に私が祀ってある別の仮宿を探して欲しい。でないと、私はいずれ消えてしまうだろう」
まるで雨が降り出しそうな曇り顔で、しょんぼりとうなだれる瑛太を見ていると、なんとかせねばと思ってしまう。
自分一人では手に負えない、そう思った。
だけど放っておくことはできない。全部は無理でも、何か少しでも手伝えることがあるのではないかと思うのだ。
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