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白昼夢から覚めたような心地で目を瞬かせていると、
「おおい、二人とも休憩せんかね。お茶とジュースどっちがいい?」
と玄関の方から声がかかり、薫は慌てて後ろを振り向いた。
とっさに瑛太を背にかばう。なんとなく今の瑛太は見られてはまずいように思えたのだ。
だが、
「お茶を頂きます」
と瑛太の声が頭の上を通っていく。
驚いて振り向くと、いつもどおり眼鏡を掛けた瑛太がいた。眼鏡に光が反射して目は見えないけれど、漂うオーラが「俺は怒っている」と訴えていた。
「薫ちゃんは?」
会長さんの声で我に返る。
「あ、わたしはジュースで!」
「じゃあ、縁側に用意しとくから、好きに飲んで」
会長さんが屋内に引っ込むと、瑛太が不快さを隠さずにため息を吐いた。
「うぅ、頭が、ガンガンする……。薫……今、俺と何を話してた? あいつ……何者?」
「……瑛太、戻った? ああ、離れてくれたんだ、よかった……!」
瑛太の顔色はひどく悪かった。
額に脂汗をにじませた彼は、先程貸した薫のハンカチで汗を拭う。
縁側にかがみ込み、苦しげに呻く。薫はペットボトルのお茶を差し出した。
「大丈夫だよ。あれは神様。そこにあったお社の」
「……か、み、さま?」
薫が簡単に今の出来事を説明すると、瑛太の眉がどんどんつり上がっていく。
「宇気比!? あんな得体の知れないものと誓約なんかすんなよ! しかもそんな相手に都合の良い条件で! あの社って最初から壊れてただろ! なんでお前が責任取る必要があるんだよ!」
「え、でも瑛太から離れてくれたんだし。結果オーライだよ」
「馬鹿か。そんなに簡単にうまくいくわけない」
「ねえ、ちょっとなんで怒ってんの? 助けてあげたのに!」
「どう考えても手に余る仕事だろ、考えなしに引き受けやがって……!」
瑛太がどうして怒っているのかわからない。
説明を求めた薫だったが、その日、彼はもうむっつりと黙り込み、二度と薫と口をきいてくれなかったのだった。
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