一 自称神様拾いました。

18/21
前へ
/206ページ
次へ
 だが、その翌日のことだった。  家のチャイムが鳴り、ドアホンを覗き込んだ薫は、写り込んだ客の映像と名乗った名前の差異に自分の目と耳を疑った。 「ちょっとー! 瑛太ちゃん、誰かと思ったじゃない。やだあ、どうしちゃったの、めっちゃイケメン!」  玄関から黄色い悲鳴が上がる。母のものだが、近所でも有名なハイテンションはいつも少し恥ずかしい。  ドアホンを見て同じことで驚いていた薫は、目をこすりながら玄関へと飛び出す。そして見間違えではないことを知り、しみじみと目を見開いた。  人は髪型でこんなにも印象が変わるのかと感嘆のため息を吐く。  美容室においてあるヘアカタログに載っていそうな、おしゃれな髪型の瑛太がそこにいた。  頭頂付近を長めに残して、こめかみと項はすっきりと短く刈られている。俳優などがやっている手入れが大変そうなやつだ。 (ソフトモヒカンってやつ? 宇宙(そら)兄ちゃんがやってた気がする)  眼鏡は相変わらずだけれど、いつも目にかかるくらいだった鬱陶しい前髪が眉の上で切られているせいで、目元の陰が消えている。トップを軽く逆立てて、ふんわりと柔らかそうだ。  ただのおかっぱだったのが嘘みたい。のっぺりした重苦しい印象が払拭されている。しかもなんだかいい匂いがする。ヘアワックスだろうか。 (整髪料なんて持ってたんだ? あと眉毛とかいつぶりに見た?)  きりりとした眉が見えるのと見えないのでは印象が違いすぎる。  あと耳を見るのもご無沙汰かもしれないと変な感慨深さがあった。  相変わらずの猫背が残念だが、なんだかさっぱりして、印象がもっさりから爽やかになっている。このレベルアップは大きいと思う。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

955人が本棚に入れています
本棚に追加