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「ひっでえな、これ」
玄関の引き戸の向こうには、大量のゴミ袋が積み上げられ、悪臭を放っていた。
コバエも舞っていて、薫はマスクを取り出すと鼻と口を覆う。
埃とハウスダスト対策で持ってきたのだけれど、まさか悪臭対策に使うとは思わなかった。
顔をしかめた瑛太が「俺のは?」という顔をするが、あいにく一枚しか持ってきていない。
代用品を探し、ポケットのハンカチを差し出す。
「サンキュ」
瑛太は遠慮なくハンカチを手に取ると、三角巾のように折りたたんで顔を覆った。
タータンチェックの赤いハンカチのせいで、瑛太の外見はさらに残念度を増すが、本人は意に介さずだ。
昔からファッションセンスと言うものが欠如していたのだが、それが壊滅的になったのは小学校高学年から。
瑛太の顔は昔、女の子顔負けで可愛くて、近所のお姉さんたちのアイドルだった。
だけど、野暮ったい眼鏡はどんどん分厚くなり、顔の印象はどんどん変わって、アイドル時代にはあっさり終焉が訪れた。
更に美容院嫌いが悪化して、年に三回くらいしかカットにいかないので(しかもいつも前と同じ感じでとしか注文しない)、一年の半分くらいはもっさりしている。
そのすべての元凶は、二ノ宮家特有の小遣い制にあると薫は睨んでいる。
彼の家では文房具代から服飾代まですべてをまとめて支給され、使い方は任されるそうだ。
彼に言わせると外見を磨くためのお金は全て無駄金。だから、この惨状なのだ。
そんな幼馴染を見ていると、薫は残念だなあと呆れながらも、世話を焼けることにほっとする。
瑛太は三月生まれ。四月生まれの薫と約一歳違う彼は、昔から欲しかった弟でしかなかった。
うっかり口にするとマジギレされるので言わないが、言わなくとも伝わっているらしく、たまに彼はとても機嫌が悪くなる。
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