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ぶわりと強い風が吹き、葉桜になった桜の木から大量の花びらが降ってくる。桜吹雪に目を細めつつ、掃除が大変だと瑛太はため息を吐いた。
「アイツ、願い事に反応して出てきたくせに、願い事、叶えなかったな。自己解決と何も変わらん」
「んー」
出現の条件がわかったのは大きな手がかりだと思う。
そのことについて話したいのに、薫はぼんやりと桜を見つめている。
心ここにあらずと言った様子だったが、やがて大きく深呼吸をする。
「神様が願いを叶えてくれないなら――《祈る》って、どういうことなんだろうね」
どうやら考え事をしていたらしい。薫が小さくつぶやいた。
彼女の疑問は、瑛太の中でもまだ答えの出ていないものだった。
そもそも、それを知りたくて瑛太は神を信じていないくせに神社に関わっているのだ。
神社が身近にあったからこそ、幼いころから不思議でしょうがなかった。
神とは何なのか。
そして人が祈るのはなぜなのか。
だが、まとまっていない考えは披露するのが難しい。瑛太は話題を変える。
「……なんにせよ、あの子、納得したから良かった。練習しないで鹿嶋まで行ってたらそれこそ時間の無駄。他の子に置いてかれたら本末転倒だ」
そう言うと、薫はどこか残念そうに息を吐いた。
「瑛太はさ。言ってること間違ってないけど……なんかもったいないよね。私は瑛太がいいやつだって知ってるけど、他の人には伝わらないから、もどかしい」
「別に……人がどう思おうがかまわない」
その言葉にいつも瑛太は密かに付け加えるのだ。
薫がわかっててくれればいい、と。
薫の髪が、花びらをまとって陽の光にきらめいている。
寂しそうで、心配そうな顔。
その顔が瑛太は気に食わない。薫がではなく、そういう顔をさせている自分に苛立つのだ。
『ただの幼馴染――っていうか姉弟みたいなもんですし!』
のっとられていても完全に意識がないわけではない。
白昼夢の中で聞こえた声が蘇る。
そんな言葉、いつものことだし慣れているはず。なのに今日は妙に胸が痛かった。
《第二章 屋敷神の正体 了》
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