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(けど、それならもうちょっと自分でしゃんとするべきじゃない?)
世話を焼かれているくせに偉そうにするなと、自称姉としては思ってしまう。
そういうわけで喧嘩は絶えないのだけれど、なんだかんだ気が置けない彼とはいつも一緒に居る。腐れ縁というのはこういうものだろうと思っている。
「ちょっとそこの若い人~」
奥にいた自治会長さんが声を上げた。頬かむりをしてマスクをしている、阿波踊りでも始めそうな風貌だ。
室内なのに既に土足で上がり込んでいるが、正直、スリッパ持ってくればよかったという惨状だったので非難はできない。
(だって、畳が黴びてるしー!)
ひえええと、内心では悲鳴を上げたいくらいだった。
罪悪感を感じつつも土足で一歩家の中に入ると、カサカサと何か凄く嫌な音がした。
反射的に浮かび上がる鳥肌。青ざめて飛び出したくなった薫に、自治会長さんは言う。
「そこのタンスの中整理してくれる?」
「えっ」
思わずおののく。
(絶対何か出て来る。間違いなく出て来る! Gだけじゃなくて、クモとかムカデとか、カメムシとかそういうのも!!)
だけど、やらないという選択肢はない。手伝いに来たのだから役に立たずに帰るというのは無理だと思った。
だが、
「いえ。俺はゴキブリ無理なんで。めちゃくちゃいますよね、ここ」
瑛太があっさり任務を放り出した。
「え? そうなの? 今の子はひ弱だなあ……じゃあ庭の方お願いしようか。瑛太くんがだめなら薫ちゃんも無理かな。でも庭広いし、草もすごいよ~。草刈りのほうが体力的に大変だけど、いい?」
「大丈夫です」
助かった。ほっとしつつ瑛太を見やると、申し訳無さそうな素振りも悔しそうな素振りもせずにさっさと外へ出ていく。
特性をわかっているのはいいことなのか悪いことなのか。
(あれ、でも瑛太もゴキブリだめなんだ?)
幼いころ、虫かごいっぱいにカブトムシやクワガタやセミを捕まえていたような覚えがあるのだが。やはりゴキブリは別だというのか。
首を傾げつつ瑛太に続いて外に出た。
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