三 苺と油揚げ

2/45
950人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
 そのまま日曜を待つはずだったが、瑛太は、金曜日の夕方、財布を手に薫の家のチャイムを鳴らした。 「ど、どうしたの?」  部活から帰って腹ペコだった薫は、夕食への未練を断ち切れず、箸を片手に玄関に顔を出す。  だが、悲壮感漂う瑛太の顔に思わず箸を取り落とした。  金曜日といえば給料日。また何かやられたのかと思ったのだ。  サンダルを履いて外に出る。  花冷えというのだろうか。昼はポカポカなのに、薄暗くなると外の空気はひんやりと冷たい。カーディガンの前をかきあわせる。 「神様になにかやられたの!?」  開口一番言うと、 「いやまだ。これ、預かっててくれないか?」  瑛太は財布を差し出す。 「えっ……なんで? 銀行は?」 「行ってきたけど、全額預けるわけにいかないだろ。休日に使う分だけ残しておいたけど、それ使い込まれそうで」 「わたしが使い込んだらどうするわけ」 「薫なら、ちゃんと請求できるから」 「……」  自分で使い込んだものに文句は言えないということか。  納得した薫は財布を受け取る。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!