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空を見ると、西から分厚い雲がやってきていた。
庭ではむうっとした生暖かい空気が薫たちを取り囲んだ。
昔忍び込んだ庭は、相変わらず荒れ放題だった。
少し前までは枯れていたはずの雑草は春の光を浴びて伸び放題で、剪定されていない樹木は葉こそ茂っていないものの、あちこちに枝を伸ばして独特のアートとなっていた。
「さっさとやるか。日が暮れる」
瑛太が腕まくりをしている。
けれどやはり道具は持参していないらしく、やる気はあるのかと叱りたくなった。
「軍手を貸してあげるから、地道にむしって」
「鎌を貸せよ。薫がやると怪我しそう」
「それはこっちのセリフだよ。わたし、こっち側やるから、瑛太は向こうね」
瑛太との間に腕で線を引くと、入口側の狭い方をやってと指差す。右手で鎌を握りしめ、左手で軍手を放り投げる。
庭の奥に向かって雑草の森は深くなる。
近くにあった木蓮の木の下には朽ちた花びらがいくつも落ちている。椿の花はまだちらほらと残っているけれど、やはり大半が花の形を保ったまま土に還ろうとしていた。
今はもう殆ど見かけなくなったポンプ式の井戸もあった。その周りを、アリとダンゴムシがうろついている。驚くほどのサイズに怯むが、先程室内で聞いた音の主に比べればまだ可愛い方だ。
外にいる虫は平気なのに、家の中にいるアレはどうしてあんなに気持ち悪いのだろうかと不思議に思いながら、薫はせっせと鎌を動かした。
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