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三 苺と油揚げ
四月も第三週に入り、桜は散り、黄緑色の若葉が目立ってきていた。
校庭でもハナミズキの花が咲き始めている。
「薫」
瑛太が教室に入ってくると、クラスメイトが一瞬ざわついた。
だが、彼は髪型以外変化はない。
クラスメイトたちはもう見慣れてしまったらしく、話題にすることもなくすぐに自分たちの世界へと戻っていく。
薫は彼に変化がないかを慎重に探し、無事を確認すると「何?」と本題を促した。時計を見るとあと五分で本鈴が鳴る。
瑛太はスマホを取り出すと、地図アプリを立ち上げた。
「今週末なんだけど、《稲荷》から順に当たって行こうと思う」
「ああ、名前探し……八つのうちの一つ?」
先日の話を思い出す。屋敷神に祀ってある可能性のある神様。
「でもよく考えたら、その八つの神様以外ってこともあるかもしれないよね?」
「だとしてもいるかわからない祖先神を探すよりはまし。時間もないし、これみて」
「ここってどこ?」
アプリでは神社にスポットが当たっているけれど、縮尺が大きいため周辺の目印が入っていない。
「鎌ヶ谷(かまがや)の方」
「鎌ヶ谷? 遠いね」
「主祭神でなきゃ他にもあったけど。あとは車じゃないとちょっと厳しい感じのとこばっかで、一番アクセスがいいのがここだった」
「じゃあ、今度は電車?」
瑛太は渋い顔で頷く。
「電車代もったいないけど、しょうがない」
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