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暫く相沢妹と話をして納得したのか、彼女は1時間程で帰っていった。
あーあ、まさか妹に捕まるなんてな。こんなふうに自分の気持ちを振り返るなんて思わなかった。
今日はバイトもなく、もともと真っ直ぐ帰る予定だったため、先程までのアイツの妹の言葉を思い出しながら家の帰路を歩いた。
「ただいま」
「おかえりー」
まただ。最近はいつも家にいることが多い。俺を迎え入れる声のするキッチンへ足を運ぶと、嬉しそうな顔をした声の主がいた。
「今日もいるんだな」
「何よ。お母さんが家にいるのが嬉しくないの?」
「別に。仕事は?」
「今はね、お休みなの。ほら、連載が終わったじゃない? だから暫くはネタ作りに没頭しようかと思って」
「何がネタ作りだよ」
「ネタ切れなのよ。そうだ、秋と優ちゃんのことでも書こうかしら」
「は? そんなんじゃねーし」
俺は、鞄を肩にかけ直しながら母親の視線を逸らした。そもそもが、母さんがあんなことを言わなければ、俺は相沢のことを気になんてしなかったんだ。
俺は、入学式の日のことを思い出していた。その日にもらったクラス分けの紙を家に持って帰り、無造作にダイニングテーブルに置いておいた。
それを見た母親が「へー、隣のクラスに相沢優って子がいるんだ」なんて言ったんだ。
「なに、誰それ」
「ねぇ、この子女の子かな? 男の子かな?」
「知らないって。誰だよ、それ」
「お母さんも知らない」
「は?」
「ただね、去年からお手紙くれるファンの子がいるの。住所がうちの近所だったから印象的でね。もしかしたらその子かしらー、なんて思って」
「まさか。そんな偶然ないだろ」
「わかんないじゃない。もしそうなら、運命的じゃない? お母さん、そういうの書きたいわ」
そう言って母は嬉しそうに笑っていた。母は、昔から趣味で小説を書いていた。専業主婦だから時間もあったし、その趣味を満喫していた。
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