27/52
前へ
/437ページ
次へ
 今まで何度か公募に出したようだが、どれもはまらず「まあ、趣味だからいいんだけどね」なんて言いながらも残念そうな母親の顔を見てきた。  そんな時、「あーもう、ネタ切れ」あの時もそんなことを言って、結局新しく書いたのが自分と旦那とのノンフィクション、つまり俺にとっては両親の馴れ初めだった。  まさかそんなものが他人の目に止まるだなんて誰も予想もしていなかったのだが、それが見事に出版、新人賞を獲得なんて大事になってしまった。  父親の方はほとんど県外や海外で活躍する画家で、そこそこの知名度がある。  趣味で始めた小説がヒットし、父親のことが世間に出ればメディアは面白がってもっと話題になってしまう。そうなればもちろん両親共に名は売れるが、俺達兄弟にも影響が出る。  父親が画家だということすら隠してきた俺達にとって、母親が有名になることも避けたいことではあった。 「せめて二人とも大学をでるまでは」なんて母親は言い、自分の素性を明かさないことを条件に執筆活動を仕事とするようになった。  整理すれば『窓際の天使』の著者、睦月明奈は俺の母親であり、相沢の憧れである足立麻帆、間宮楓のモデルは俺の両親ということになる。  だから、夏希に間宮楓を重ねて見ていたなんて発言した相沢の言葉に俺は正直驚いた。  実の息子なのだから、似たような印象を受けてもおかしくはないのだが、その事実を相沢が知るわけがなかった。 「ねぇ、今度見てみてよ。相沢優ちゃん」 「いやいや、男だったらどうすんだよ」 「んー、女の子だと思うんだよね」  俺は、母親の言葉を笑っていたのだが、一年の時三浦と同じクラスになり、その友達が相沢優だと知った時、あろうことか運命なのかもなんて柄にもないことを思ってしまった。 「私の仲良い子、変わってるんだよね。毎日ずっと同じ本読んでるの」  三浦がそう言った時、もはや確信しかなかった。念のためなんていう本か聞けば、やはり『窓際の天使』だった。  彼女は、俺の母親の書いた小説を何よりも大事にし、ファンレターを送ってくるほどの熱狂的なファンだった。俺だけが知っている事実が、俺を夢中にさせた原因だと思うのだ。
/437ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2144人が本棚に入れています
本棚に追加