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「なぁ、そう言えば夏希に相沢のこと話した?」
料理を続けている母親に、俺はそう尋ねた。なぜ夏希が相沢と一緒にいることになったのか、それも夏希の方から誘ったのかが疑問だった。
「夏希に? ううん、だって優ちゃんと夏希は学年も違うんだから話したって仕方ないじゃない」
「まあ、そうなんだけど」
「なに? 夏希と優ちゃんが関係あるの?」
「別に」
「何よ、自分から聞いておいて。それより本当にどうなの? 優ちゃんとは仲良くしてるの?」
「だからそんなんじゃねーって」
「もう。せっかくこんなに運命的な出会いをしたのに何もないなんて、つまらない」
母親のため息とともに、包丁がまな板を打つ音が止んだ。
「自分のネタ作りに、息子を利用しようとするなよ」
「だって、窓際の天使続編が書けるかもしれないのよ? 素敵じゃない。ねぇ、それで優ちゃんってどんな子だったの?」
「だから、去年言っただろ? 地味で目立たないようなやつだよ」
「えー……可愛い?」
「……いや、ブス」
なんで俺の口から母親に、相沢の可愛さを説明しなきゃならないんだよ。俺は、着替えるため、そのまま母親に背を向け、キッチンを出ていこうとした。
「あらあら、照れちゃって。秋はまだ子供ね」
後ろから、からかうような声が聞こえ苛立ちを覚える。
そんなことは自分が一番わかっている。もっと精神的に大人になれたなら、相沢とだってちゃんと話し合いができただろうし、あんなことしないで済んだ。
というか、俺がこんなふうに悩むのだって、母さんが相沢の存在に気付いたせいだ。
誰のせいでこんな思いをしていると思っているのか。そうは思うものの、この感情を母親にぶつければ今以上にからかわれることは目に見えている。
俺は、その声を無視して、自室へと向かった。
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