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「そう、花火。来週あるじゃん」 「ああ、うん。毎年7月の中旬だもんね」 「うん。それでさ、一緒に行かないかなぁって思って」 「はあ……いいけど」  なぜ急に野村くんは花火になんて誘ってきたのだろうか。それは謎だったが、高瀬秋のショッピングに付き合わされた時のことを思えば、なんてことのないように感じた。  しかし、次の野村くんの言葉で、彼の真意を知ることになった。 「え、マジで? じゃ、じゃあさ……三浦とか誘える?」  なんだ、そういうことか。それならそうとはっきり言えばいいのに。野村くんの回りくどい誘いかたに、多少の苛立ちを覚えた。  こういったことは、今まで何度もあった。だから、さすがに恋愛に疎い私でも野村くんはひかりと花火に行きたくて、私を利用しようとしていることくらいわかるのだ。  そして、先に目的を言えば私が断るかもしれないことを予測して先に私を誘ったのだ。  優しい人だと思ったけれど、その優しさの裏にはこんな目論見があったのか。 「……ひかりと行きたいなら、普通に誘ったらいいのに」 「い、いや、別にそういうわけじゃ……」 「じゃあ、誘わなくていいの?」 「それは……」 「野村くん、ひかりと仲いいじゃん。誘えば一緒に行くと思うけど」 「いや……違うよ」  普段、野村くんと高瀬秋とひかりの三人で話をしているところをよく見かける。  花火だって三人で行けばいいのにと思うのだが、私の考えてとは裏腹に野村くんは寂しそうな表情を浮かべた。 「違うってなにが?」 「三浦はさ、秋がいるからくるんだよ」 「え?」 「だから、別に俺と仲がいいわけじゃなくて、三浦は秋と一緒にいたくてくるんだよ」  野村くんが何を言っているのかわからなかったが、彼の言葉を何度か頭の中で繰り返すと、一つの仮説ができあがった。 「え? それって……ひかりは高瀬秋のこのが好きってこと?」 「多分な」 「いやいや、ないでしょ」 「何でないって言いきれる? 相沢は気付いてないかもしれないけど、三浦が自分から話しかけるのって、相沢と秋だけなんだよ」  そう言った野村くんの瞳が微かに揺れた気がした。
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