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3人の先輩がいなくなったことで、廊下に静寂が戻った。今度こそ、誰もいない放課後の空間。
「おい、大丈夫か」
「うん、ありがとう」
すっかり気持ち的に弱りきってしまった私は、先日のことを蒸し返す気力もなく、助けてもらったと言わざるを得ないこの状況から、素直にお礼を言うことしかできなかった。
「あの人達、評判悪いんだよ。あの夏希でさえ参ってるみたいだから、このこと夏希に言えば暫くはおとなしくなると思うけど」
「……夏希先輩には言わなくていい」
「そう言うと思ったけど、他からこの話が漏れた時に、夏希が自分を責めることになると思うよ 」
「……」
「言っただろ。夏希に近付くってことはこういうことだ」
「うん……」
わかっていたつもりだった。
夏希先輩は人気者で、彼と交流を持ちたがっている子はごまんといる。その中で私だけが2人きりで時間を過ごせば妬まれて当然だ。
しかし、こんなにも複数に囲まれて、大切なものまで奪われようとするものだったとは、自分の考え方の甘さになんだか笑えた。
「あーあ。こっちも酷いな」
廊下に散乱した雑誌や、踏みつけられて破れた『窓際の天使』を拾い上げながら言った。
手渡されたそれらを見てまた悲しくなる。私がずっと守り続けてきた本は、こんなにも簡単に他人に壊されてしまう。
「新しいの、やるから」
「……それじゃ意味ないから」
「わかってる」
じゃあ、何でそんなこと言うの? そう聞き返したかったが、今彼と言い争う体力は私には残っていなかった。
「何で、ここにいるの?」
私は、話題を変えるようにそう尋ねた。
「野村に帰りに飯食いに行こうって誘われた。お前と日直だから、終わるまでファミレスかどっかで時間潰しててって言われたから、夏希に帰りが遅くなるって言いに行こうと思って。そしたら、声がしたから来てみたら、こうなってた」
偶然にしろ、彼が通りかからなければ、私はもっとひどい目に遭わされていただろう。
こんな時ばかり、都合よく高瀬秋がいてくれてよかっただなんて思う私は最低なのかもしれない。
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