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「そうだったの……」 「うん。それより、お前怪我してる」  彼から受け取った雑誌や本を元の手提げバッグに戻していると、私の膝に視線を移した彼がそう言った。 「大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから平気」 「でもちゃんと洗って手当てした方がいい」 「いいよ。絆創膏持ってるから。それ貼って、後は家でやる」 「そ。本当に大丈夫なんだな?」 「うん」  真っ直ぐに私の視線を捕らえる彼に頷くと、彼は「じゃあ、俺も行くから」そういって学生鞄を持ち直した。 「え? うん」  もっと何か言われるものだと思っていた私は、あっさりと帰ろうとする彼に拍子抜けしてしまった。 「今度は多分大丈夫だろうから、安心して行ってこいよ」  彼はふっと笑って私に背を向けた。  安心して行ってこいってどういうこと? どこに? もしかて夏希先輩のところに?  今までは、夏希先輩に会うことを拒んでいたくせに、今は先輩のファンから私を助けてくれて、送り出そうとまでしている。  どういう風の吹き回しだろう。私は、彼の行動が理解できなかった。  先日は、嘘みたいに私のことを好きだと言ってキスまで奪ったくせに。あの時のことなんてなかったかのように、彼の背中は遠くなっていく。  私は、彼の背中が見えなくなってからようやく美術室の方へ目を向けることが出来た。  私は行くかどうか迷っていた。夏希先輩に会いたくてここまできた。けれど、そのせいでこんな目に遭ったのも事実。  本当は、やっぱりもう会わない方がいいのかもしれない。  そう思うと、高瀬秋が歩いていった方へと足を運びそうになる。  しかし、それでは、私はなんのためにあんなに怖い思いをしたのだろう。  夏希先輩に会いたいからだ。誰になんて言われようが、私は夏希先輩に会いたいから、高瀬秋の忠告を聞かなかったんじゃないか。  自分の決心を思いだし、私はやはり夏希先輩に会いに行こうと決めた。  足を一歩踏み出した時、じんと右膝に鈍い痛みが走った。  私は学生鞄をあけてスケジュール帳を取り出すと、背表紙の間に挟んでおいた絆創膏を取り出した。  今日家に帰ったら、ちゃんとポーチの中に入れよう。そんなことを考えながら、私は自分の膝に絆創膏を貼るのだった。
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