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「よかったです。私も嬉しいです」 「絵を描くのがこんなに楽しいって思えたのは、久しぶりなんだ。優ちゃんが来てくれたおかげ」 「そんな……私、何もしてないです」 「ううん。綺麗な表情を見せてくれたり、あの本を大切にしていてくれたり、絵を描く過程を真剣に見守ってくれたり。そういう真面目で優しいところ、一緒にいて癒される」 「え……?」 「優ちゃんは、ちゃんと俺の絵と向き合ってくれるから。絵を描いててよかったって思える。ありがとう」 「いえ、そんな……」  こんなにもお礼を言われたことなどなくて、正直驚きが何よりも勝った。  私は、彼に会いたくて、彼のことを知りたくてここへ通っていただけだ。  私にとっては私欲のための空間。それなのに、この人はありがとうなんて言ってくれる。  そんなことを言われたら、この純粋な人に対して邪な感情を持ってしまっている自分が恥ずかしくなってしまう。 「完成するまで見届けてくれる?」 「も、もちろんです!」  それは、夏休みも一緒にいてもいいというお許しをいただいたようなものだった。  先輩達になにを言われようと、本人が側にいていいと言ってくれるのだ。私は、もっとこの人と一緒にいたい。 「じゃあ、早速絵の具を用意するね」  先輩は嬉しそうに笑い、道具を用意し始めた。 「日直の仕事、大変だった?」  合間にそんなことを聞かれ、会話がまた始まる。 「いえ、相手の子が色々やってくれたんで、とっても助かりました」 「そう。それならよかった。優ちゃんちクラスは、日直ってどうやって回ってくるの?」 「私たちは、隣の席同士で左前から順番に回ってきます」 「じゃあ、この前の席替えで隣になった子と一緒にやったんだ」 「そうです」 「男女2列になってるんだったよね?」 「そうですよ。野村くんっていう、たか……秋くんの友達です」  秋くんだなんて呼び慣れないものだから、つい苗字が先にきてしまい、慌てて言い直した。
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