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 野村くんがあんな顔をするものだから、私はひかりが夏希先輩のことを好きになってしまうのではないかという不安でいっぱいになった。  いくら私に優しくしてくれる夏希先輩だって、あんなに綺麗な子を目の前にしたら気にならないはずがない。  高瀬秋は、ひかりのことをあまりよく思ってないようだったけれど、彼と夏希先輩がいくら兄弟でも趣味や感情は違う。  まして、毎日顔を会わせている人間と、その日初めて出会った人間とでは、相手に対する印象だって違うだろう。  それに、夏希先輩が私に優しくしてくれるのだって、自分の弟のクラスメイトだからに過ぎないかもしれない。  それなら、ひかりだって条件は同じで、むしろひかりの方が高瀬秋と仲がいい。それを知ったら、余計に私よりもひかりの方が好印象を与えるかもしれない。  私はそんなふうにマイナスなことばかりを考えしまい、今にも不安に押し潰されそうだった。  それは授業中も休み時間もずっと続き、野村くんとの会話も、ひかりとの会話も頭に入ってこなかった。  放課後、夏希先輩に会ってもこの笑顔がひかりに向けられることを考えると不安ばかりが募って仕方なかった。  私は意を決して、この出来事を瑞希に相談することにした。結局いつも行くつく先は瑞希だ。 「お姉ちゃん、そこはもうちょっと考えようよ」  瑞希からは、あきれたようにそう言った。ごもっともである。 「そうなんだけど……まさか先輩が一緒に行きたいって行ってくれるなんて思ってなかったし」 「それはまあ、たしかに。コンクールもあるしね」 「それに、やっぱり先輩に一緒に花火を見たいって言われたら嬉しくて……」 「そりゃ好きな人にそう言われたら嬉しいよね」 「でしょ?」 「でも、ひかりちゃんにとられたら意味ないじゃん」 「……」  瑞希に言葉にぐうの音もでない私。だからこうして私は瑞希に恥を忍んで頼んでいるのではないか。
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