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 夏希は、昔からなにを考えているのかわからないところがあった。  嫌なことは嫌だと言う俺とは対称的に、夏希はなにが嫌だと言うこともなかったし、全て俺に譲った。世間的にみてもいい兄貴だと思う。  だからこそ、夏希が何を考えているのかがわからない。  いつも夏希が折れるから、兄弟喧嘩もほとんどしたことがないし、絵を描くことが好きなこと以外は何に興味があるのかもわからなかった。  そんな夏希が相沢のことを好きかもしれない。不安は大きくなった。  なぜなら、夏希が今まで誰かと花火大会に行くなんて聞いたことがなかったからだ。特に毎年コンクールのあるこの時期に遊びに行くことなんてしなかった。  それなのに、相沢妹の話を聞けば一緒に行きたいと言ったのは、夏希の方からだという。  相沢は、一緒に行く相手がいなくて困っていたからそう言ってくれただけだと思うと言ってたようだが、いくら夏希がお人好しでも、この大事な時期に人助けで花火大会になんて行かないだろう。  しかも、弟のクラスメイトと一緒にだ。理由がなければそんな面倒なことには巻き込まれたくないはずだ。 「それで、高瀬さんは行ってくれる気あるんですか?」 「……行く」  夏希が相沢のことを好きだなんて、冗談じゃない。相沢が勝手に夏希のことを好きでいるならまだ許せた。  しかし、もしも両想いだったとしたら。二人が付き合うなんてことになったら。想像しただけでも気が気じゃなかった。
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