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「そういえば、優ちゃんも野村くんは優しくて頼りがいのあるいい人だったって言ってたよ」
「え? 相沢がですか?」
「うん」
夏希は、不意に思い出したかのようにそう言った。
優しくて頼りがいのある? なんだそれ。こいつのどこにそんな要素があるって言うんだ。
俺なんてチャリ2ケツして、家まで送っただろうが。それにこの前の女の先輩から守ったし。
「あ、秋のこともこの前は助けてもらって感謝してるって言ってた。俺のせいで優ちゃんに怖い思いさせちゃって申し訳なかったけど、助けてくれてありがとうね」
不服そうな俺を見たからか、夏希はまさに今俺が考えていたことに対して礼を言った。こんなにすんなりと感謝を口にできるのは羨ましいとさえ思う。
「え? 何かあったの?」
「いや、たまたま困ってることろに遭遇しただけ。あの人達、ちゃんと返してくれた?」
「うん。優ちゃんに渡しておいたよ。でもちょっと意外だった。お化粧するんだね」
「さあな。全部が新品だったし、使ってはなんじゃない?」
ちゃんとファンデーションとリップが相沢のもとに返ったということを聞けただけで安心した。
何だか大事そうにしていたから、戻ってこなかったら可哀想だし。
「え? 相沢? 化粧するの?」
「だから知らないって」
俺からすれば、アイツは化粧なんてしなくていい。綺麗に着飾ったアイツを他の男に見せる必要なんかない。
それならいっそのこと、他の男に見向きもされないような昔のアイツのままでいい。
「でも、最近可愛くなったよな」
野村がまたボソリとそんなことを言うものだから、俺の感情は乱れっぱなしだ。
「でも野村くんは、優ちゃんの友達が好きなんだよね?」
何かを言い返してやろうと思った矢先、夏希が間髪いれずにそう言った。
「え!? ちょ、何で……」
野村は狼狽しながら夏希を見ている。
「俺も知ってるから」
「え!?」
俺と夏希を交互に見ながら、野村はばつが悪そうに両手で顔を覆った。
黙らせてやろうと思ったが、夏希の一言でこうもおとなしくなるとは。
当の夏希を見れば、いつものようにニコニコと笑っているものの、なんとなく違和感を覚え、相沢のことを可愛いと言ったことが気にくわなかったんじゃないかとすら思えた。
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