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 優待席とはいかないが、そこそこ楽しめる場所で、野村がなぜかビニールシートだけは持っているという準備のよさに感心しながら俺達は腰をおろした。  以前相沢とショッピングモールへ行った時、暗くなるまで一緒にいたが、その時と今とでは浴衣を着ていることもあって大人びて見えた。  花火が上がる度に光で映し出される相沢の顔に思わず見とれた。 「そんなに見てたら周りから見てもバレバレですよー」  抑揚のない声で相沢妹が言う。見られていたことに羞恥心を覚え、相沢から目を背けた。 「一応、花火を見に来ているわけですから」 「わかってるよ」  俺は、あぐらをかいた腿の上で頬杖をつき、ふと夏希の方を見るとアイツも相沢 の横顔を眺めていた。  思わず目を見開き、何とか夏希の興味をそらせないかと考えていると、「ねぇ秋、私かき氷食べたい。一緒にきて」と三浦が話かけてきた。 「なんでさっき買ってこなかったんだよ」 「さっきは温かいもの食べてたから」 「いやだ。……相沢と行ってくれば?」  相沢を夏希の視線から外せるなら理由なんてなんでもいい。しかし、俺が三浦とこの場を離れれば、いつあの二人の距離が縮まってしまうかわかったもんじゃない。 「瑞希ちゃん一人で置いてけないよ」 「じゃあ、野村と行ってくれば」 「シートは良輔のだし、留守番してた方がいいと思う」  この女も色々と口実を考えるものだ。 「じゃあ、夏希」 「え?」  三浦は、俺の言葉が予想外だったのか大きな目を更に丸くさせた。  相沢妹もこの二人がくっつく分にはかまわないって言ってたしな。 「なんだよ。夏希と行ってくれば?」 「え、でも……ねぇ、なんで優と夏希先輩って仲良くなったの? 私、花火に誘われた時からずっと疑問だったんだけど」  三浦は、暫く考えて込んだ後、そう尋ねてきた。
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