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翌日私は、瑞希に用意されたワンピースと靴を身につけて、待ち合わせの場所へ向かった。
瑞希のことだから、高いヒールでも用意したんじゃないかと思っていたが、私が履き慣れないヒールを履いて歩けるわけがないとわかっているのか、それとも明日は歩くからと言った私の言葉を聞いていたからかわからなかったが、玄関に置かれていたのは、歩きやすそうなサンダルだった。
白いサンダルは、小さな花が3つついていて可愛かった。
約束の場所へ行くと、輝かしいオーラを纏った男がスマートフォンの画面に視線を落として立っていた。
こんなに目印になるような男がそうそういるだろうか。
周りを歩く私と同じくらいの年の女の子達は、ちらちらと彼を見ては顔を赤らめている。
そりゃそうよね。顔だけみたら悔しいけれど、すごくカッコいいもの。顔だけみたらね。
私は、心のなかで悪態をつきながら、関わりたくないその男に近付いた。
スマートフォンの画面を見ていたその男は、少しだけ視線を上げたが、すぐに視線を画面へと戻してしまった。
え? なに、無視ですか?
呼び出したのはこいつの方なのに。私は、私を呼び出した張本人、高瀬秋に苛立ちを覚えた。
「ねぇ」
「……」
声をかけるが、彼は顔を上げる気配がない。
「ねぇってば」
「……」
まだ無視をし続けるつもりか。そのまま知らん顔していてくれるのならば、私は喜んで帰ろう。
しかし、夏希先輩の件がある以上、こいつの用事に付き合わなければならない。それなのに、当の本人は素知らぬ顔。
何がしたいのかさっぱりわからなかった。
「ちょっと!」
「悪いけど待ち合わせしてるから話しかけないでくれる」
高瀬秋は気怠そうに顔を上げ、不機嫌な表情を覗かせた。
しかし、私と目があった瞬間、驚いたように目を大きく見開き、「あ……」と声を漏らした。
「話しかけないでくれるって……あんた、誰と待ち合わせしてんのよ」
「いや……知らない女が話しかけてきたのかと思ってた」
「何言ってんのよ。あんたが来いって言ったんじゃない」
「おう……」
高瀬秋は、暫くじっと私のことを見つめた。物珍しいものでも見るような目で見られ、私は落ち着かない気持ちになった。
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