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 相沢の隣の席を確保できたことで、安心感に包まれた。  これで夏休みまで毎日相沢の隣にいられる。もう話しかける口実を探すことなく自然に隣の席に座れるのだ。  俺は内心浮かれていた。相沢にいくら嫌な顔をされようとも、1ヶ月も隣にいればその内慣れるだろう。  席の移動の合図がでるのを今か今かと待ち、生徒が動き出したのを確認してから、俺は6番の席へと向かった。  一斉に皆が動くものだから、思ったように目的の位置まで行けず、立ち往生する。やっとたどり着いた先には、相沢とその隣に野村が座っていた。 「おー、秋。お前、この辺?」 「あ? そこ、俺」 「へ?」  話しかけてきた野村が、きょとんとした顔で俺を見る。なんでお前がそこに座ってんだよ。半ば苛立ちを覚えながら、早くそこを立ち去れと願う。 「ちょっと見せて」  俺のくじを取り上げ、中を見た野村は「あー、これは6じゃなくて9だよ」と言った。 「は? どうみても6だろ」 「いんや、俺らの下にライン入ってるし」  野村は、自らのくじを広げて見せ、相沢の机の上に乗っていたくじすらも同じように俺に見せた。  確かに野村が言ったように、6と書かれた下にラインが引かれている。 「えー……」 「そういうことだから、秋は9。前から2番目です。御愁傷様」 「嘘だろ」 「嘘じゃないって」 「いやいや、そもそもアンダーラインって引くなら両方に引くものだろ」 「あー、確かに。めんどくさかったんじゃね?」  そんなんありかよ。しかも、この字体の9ってなんだよ。わかりやすく区別つけろよ。マジ、このくじ作ったの誰だよ。  相沢の方を見れば、興味なさそうに教壇の方を向いている。あの視線の先が俺の席ということだ。  そう思って気付く。これじゃ、後ろから相沢を見ることすらできなくなる。そんなことってあんのかよ。  俺は煮え切らない思いで、その場で硬直する。 「おーい、高瀬。お前、なに寄り道してんだ。皆移動してるぞ。早くそこにこい」  担任が指差す先にはぽっかりと空間ができている。やはり俺の席はあそこなのか。  なんだよ、アイツ。これ9だよって教えろよ。よりによって何で野村なんだよ。  悔しさと自分の早とちりに対する苛立ちとで、色んな感情がすでにごちゃ混ぜだった。俺は、仕方なく全員が移動し終わった中で机を持って9の位置へ行くのだった。
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