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 私はいつものように放課後になると、美術室へ向かった。先日高瀬秋に言われたように、昼休みは音楽室へ行くのをやめた。  その代わりに、以前彼に言われたように多目的教室へ行き、読書をすることにしたのだ。  別に彼の言った通りにしたわけではない。空いている教室といったら、学習室か多目的教室くらいしか思い付かなかっただけだ。  学習室は、大学受験に向けた3年生がちらほら使い始めているし、多目的教室ならまだ空いていた。しかし、本格的な受験シーズンになれば、あの教室だって埋まって行くだろう。  せっかくの穴場へ行けなくなったことは、私にとって少なからずダメージを与えた。それでも、こうして夏希先輩に会えることはとても幸せである。  帰り支度をし、荷物を一式持って向かった美術室。手提げのバッグの中には、読書用の本。本といっても『窓際の天使』ではない。  瑞希から借りたファッション誌だった。まさか自分が、学校でもファッション誌を読む日が来るなんて、思ってもみなかった。  私がこうしてファッション誌を読むようになったのは、瑞希に髪を切られて登校した日に遡る。  放課後、美術室を訪れると、夏希先輩は「髪切ったの? 雰囲気が変わったね。とてもよく似合ってる」そう言って、眩しい程の笑顔を見せてくれたからだ。  不安しかなかった私の心が一気に晴れた瞬間だった。  ひかりに言われても、クラス中にこそこそ言われても、バカにされているとしか思えなかった。けれど、夏希先輩はきっと、嫌味や人が傷付くことを言うような人ではないだろう。  あの笑顔が何よりの証拠だ。夏希先輩がそう言ってくれたから、瑞希が整えてくれたこの前髪も眉毛も少しだけ好きになれた。  だから、もうちょっとだけオシャレしてみるのもいいのかななんて思ってみたのだ。
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