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「お、新一回生やんなぁ?」
ふいに、秀と祐也に声がかかる。
振り向いた先には、脱色した明るい茶髪の男。
なんだ、コイツ。軽そうなやつ。と秀は思う。
「おい、こら滝。急に消えるな」
もう一人、こちらは普通に黒髪の男だ。
「悪い悪い。真」
全然謝っているように見えないな、と秀は思う。初対面の相手を、それも多分自分より年上だろう相手を、見た目だけで判断してはいけない、とも思いながら。
「やって、可愛い子見えたら、声かけるでしょ」
可愛い子って誰だ?と秀はハテナを浮かべる。自分も祐也も男だ。
一方、祐也はいきなり秀に可愛い子とか言っちゃうチャライ男現れたー!これは、俺が秀を守らなければならない、などと思っているのだが。
「一回生になる奴らに、さんざん可愛い可愛い言いまくってた挙句に、男にも言うか」
どうやら、その辺の女子なんかにも既に声掛け済みらしい。
やっぱり軽い男だ。と秀は改めて思う。
「ちゃうやん。ほら、見てみ、この子めっさ可愛いやん。さっきまでの女とかもう忘れたわ」
がっちりと、滝という男に肩をホールドされて、秀は慌てる。
おい、可愛いって俺のことか?と。
「ちょ、……」
「離してやれ、びっくりしてるだろ」
祐也が口と手を挟む前に、真と呼ばれた男によって、スマートに秀が解放される。
「んー、可愛いのは認めるけど、男にそんなこと言われても嬉しくははいだろう」
否、男『が』です。と何となく口が挟めなくなってしまっている秀は、心の中で思う。
所在なくなった祐也の手は、秀の腕を掴み、彼らの前から去るように秀を動かす。
とりあえず、絡まれたままも嫌なので、秀は祐也に従って、歩き出した。
「あー、待て待て。サークルとか入らん?」
「入るとこ決めてるので、勧誘ならいりません」
きっぱりと祐也が言い、男二人を引き離すべく、食堂内に入って行く。
「あちゃー、嫌われてもーた」
「当たり前だ。あんな声のかけ方したら、誰だって話したくなくなるぞ」
「嘘やん。可愛い子には可愛いって言って、何が悪いん?」
なにやら後ろで二人が言い合いしている。
しばらく食券は買えなさそうだ。
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