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「秀、大学に行く気はありませんか?」
高校生最後の夏を前に、一番上の兄に言われた。
自分の生まれ育った家から出て、この長兄に付いてきたのは、まだ去年の頃。
俺は大学へ行く気はなくて、自分たちが持って産まれた力を使っての仕事を、一手に引き受けても良いと思っていた。
「正兄?」
霊安寺からの依頼と寄付金。自分たちに直接来る依頼。
それだけで、全員が生活していくには、やはり依頼遂行者が、しっかりいるのが必要だと思ってたから。
特に、大学で学びたいこともないし。
だったら、自分の情報収集能力を生かした、情報屋としての仕事も増やせば、もっと楽に皆が生活できていくんじゃないかとも思った。
「私はね、秀。君にはもっと色々な世界を見て欲しいと思っているんだ。あれが学びたい、とかないのかもしれない。けれど、大学で何か秀にとって良い出逢いがあるんじゃないかと、思っているんだよ」
優しいけれど、威厳のある兄。
俺は、いつも遠くからしか見ていなかった。
中条家の総帥になる人物として、兄はいたから。
反対に、俺は、家族の中でも異端だと、隔離されていた。
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