プロローグ

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 兄は、俺に友人を作って欲しいと思っているんだろうけれど。軽いけど、人間不信ともとれる俺のこの、人間への恐怖心、人間の体温への恐怖心を伝えてはいないんだから、仕方ないのかもしれない。  小さなころから、接点が無さすぎたんだ。尊敬してるし、大事な兄だけど、俺のこんな弱さを見せたくなかった。知られたくなかった。知られて失望されるのが、何よりも怖い。 「可能性、ですよ秀。駄目だ、と思ったら、退学しても良いんです。気楽に考えてください」  優しい兄の言葉。  俺に逃げ道も与えてくれる言葉。  首を、横には振れなかった。  俺は結局、人間の何が恐いのか考える為に、人間というものを知る為に、心理学科を選んで受験した。  高校の教師が、もっと良い大学があると、勧めてくれた大学は、とてもじゃないが、家から通えなかったから辞退した。  今までの高校生活、勉学はまじめにしてきたから、俺の選んだ大学の推薦がもらえてしまった。  簡単なテストと、面接だけ。論文なんかは必要なし。  テストは、こんなんで良いのか?っていうくらい簡単すぎて。こんなんじゃ誰も落ちないだろう、とか考えながら受けた。  面接は、ある程度予想通りの質問で、優等生回答して終わり。  推薦がもらえたくらいだから、内申点も問題ない。  まぁ、つまり、見事に合格してしまったので。  大学生……か。  ちょっと前までは考えてなかったから、どんな風にすごそうだとか、そんなこと何もなくて。  こんなんで大丈夫なのか、とも思ったんだけど。  合格を知らせた時に、兄は嬉しそうに笑ってくれたから。兄が言うように、楽しめたらそれで良いかな、なんて思って。  確かに、俺の世界は狭いから、広げられる可能性があるならば、経験して、広げていくのも大切かな、とか。  俺の世界は兄たちと、仲間だけの世界だから。友人もいる世界っていうのが、作れたら良いのかななんて。  俺の中の人間不信的なものは、きっと無くなりはしない気もしたけれど。  兄の言う、可能性、信じてみようと、思った。  明日は大学の入学式。
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