2人が本棚に入れています
本棚に追加
驚かれたように声を出されたからなんでだろうと思い店員の顔を見ると、どうやら新人のようだ。顔見知りの店員なんかは俺が何も言わなくても「五万円でいいの?」と最初から言ってくれる。財布から諭吉さんを五人引き抜いて、青年の手に押し付けた。大事にカードを受け取って財布にしまう。ちらりとスマホを見てみると、ダウンロードはもう直ぐ終わりそうだ。電車の中でちまちまカードを触るのは、もし落としてしまったらと思うと怖くてできない。それはもう、家に帰ってゆっくりとすればいいか。
改札をくぐってホームに行くと人はまだそこまで多くない。人ごみに飲まれることなくゆらゆら十分くらい揺られれば、そうしたら俺の楽園まであと五分ほどだ。早く帰りたいなぁ。涼しいクーラーの効いた部屋で、大して上手くもないけれどまずくもない発泡酒を飲みたい。それまで、もうあと少しの辛抱だ。
「今回は気合入れていかねーとなぁ。期間短いし」
ダウンロードは終わっていたらしく、小さな画面にタイトルが映し出される。スタートボタンを押したタイミングで、ちょうど電車がやってきた。すぐに降りられるようドアに近いところを陣取ってイヤホンをする。乗り過ごさないように気をつけないと。とりあえず、最初にこれだけはやっておこう。
『プリズムストーンを八十六個購入します。よろしいですか?』
ためらいもなく『はい』を押して、指紋認証をする。無事に購入できたようで石の蓄えが増えていた。これでダメなら先ほど買ったミュージックカードを使えばいい。
「試しに一回くらい回しとくか」
最寄り駅まであと一駅、時間としてもちょうどいいくらいだろう。キラキラ輝く、美しい石。俺の希望、俺の喜び。俺は、これのために働いているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!