75人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
やがてパパが玄関へ向かい、その後をママがついていく足音が聞こえてきた。パパはママから鞄を受け取ると、「いってきます」と言って家を出ていった。あたしはソファの上から首を伸ばしながら、そのやり取りを見ていた。
窓の外はすかっと抜けるような青空だ。うすーく、綿あめを指で引き伸ばしたような雲がゆっくりと流れていく。夏休みはもう半分を越えたのに、今年はまだどこにも連れていってもらっていない。
ママが冷蔵庫からよく冷えた梨を持ってきた。
「食べるでしょう、梨」
「うん」
「お隣の遠藤さんからのいただき物なの。田舎からね、たくさん送られてきたんですって」
ママは新聞に入っていた折り込み広告をテーブルの上に一枚広げると、梨の皮をするすると剥いた。あたしは居住まいを正すと、ママが梨の皮を剥くのをじっと眺めた。
ママは食べ物の皮を剥くのがとても上手だ。梨でも、りんごでも、ダイコンでも、ニンジンでも、ママの手にかかると皮は途中で一度も千切れることなくするすると剥けてしまう。あたしはそのようすを眺めるのがとても好きだ。だからいつも、たとえばお腹がいっぱいでも、そのとき食べたい気分じゃなくても、「うん」と答えてしまう。その光景が見たいがために。
いつの間にか隣から姿を消していたまいが、あたしのベッドからもってきたクリストファーロビンの縫いぐるみで遊んでいた。
「まい!」
クリストファーロビンはあたしの宝物だ。もうずっと前、あたしがまいくらいの年齢のときに、ディズニーランドでパパに買ってもらったのだ。それからは、スヌーピーとウッドストック、プーさんとピグレットのように、クリストファーロビンは、大事なあたしの相棒。
「まい、それはダメって前にも言ったでしょう!」
「いやなのー。まいも遊ぶの」
「ダメだってば! 返して!」
最初のコメントを投稿しよう!