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力づくで縫いぐるみを取り返したあたしに、まいは顔を歪めると、その瞳に大粒の涙が盛り上がった。
あ、きた。
あたしは心の中で思わず身構える。
「おねえちゃんのいじわるうーっ!」
うわーん、と耳を塞ぎたくなる大声で泣くまいに、ママがこめかみのあたりを指で揉んだ。
次に言われる言葉はわかっていた。
「みひろはおねえちゃんなんだから」
ママの吐いたため息が、あたしの胸の中に小さな塊になってコトンと落ちた。あたしは唇を噛み締めた。まいの泣き声を聞きながら、あたしだって泣きたいと思う。
どうしていつもあたしが我慢しなきゃいけないの? まいなんて、泣けばすむと思っているくせに。なんであたしばっかり。なんで、なんで……。
けれどのどの奥に引っかかった言葉は、一度も吐き出されることはない。
きょうも嫌んなるくらいにいい天気。ベランダの朝顔が蔓を伸ばし、青色の花を咲かせている。
梨の中身はスカスカで、けれど噛み砕いた歯の隙間から、柔らかくて冷たい甘味がじわりと口の中に広がった。
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