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「ゴム取って」
あたしは手首からピンク色の髪ゴムを抜き取ると、正面を向いたまま、後ろにいるママに手渡した。
「はい。反対側を向いて」
ママに言われたとおり、体の向きを変える。お辞儀をするみたいに上下に動かした靴下のつま先を眺めながら、あたしは髪が突っ張らないよう両手でこめかみのあたりを押さえていた。
「はい、できた」
ママからブラシを受け取って、洗面台の鏡で出来栄えを確かめる。きつくふたつに結わいた編み込み。
容子ちゃんの髪の毛は、容子ちゃんのママと同じふわふわの天然パーマだ。あたしは泣きたくなるくらいのストレート。けれど、編み込みに結わいてもらったときだけ、寝る前にお揃いになれる。
「ここ、ぴょんて出てる」
「どこ?」
ママはあたしが持ってきたピン留めで、うまく髪のほつれを隠してくれた。
「ありがとう」
あたしはうさぎの真似をして、ぴょんぴょんとうさぎ跳びをしながらリビングを一周する。
「まいも! まいもするー」
最近はなんでもあたしの真似をしたがるまいが、すぐに後ろでうさぎ跳びを始めたけれど、なんだか不格好でちゃんと飛べていない。
「まい、なにそれ」
あたしが思わず吹き出すと、まいは弾けるような笑い声をたてた。
「なにそれ。なにそれ」
あたしの口真似をして、きゃらきゃらと笑う。
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