ゆうれい ※BLではありません

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「あのな、あそこん家のじーさんが、ある晩、寝苦しくて目が覚めたんだ。そしたら何かが胸の上にずっしり乗ったみたいに体が動かない。声を出して誰かに助けを求めようとしたけど、声も出ないんだ」  あたしは、またいつものひーくんのいんちきだと思った。でも、もしかしたら今度は本当かもしれない。  体の周りを覆う空気がなんだか重くなった気がした。あたしは無意識のうちに、空いているほうの手で鳥肌の立つ腕をさすった。 「そしたらな、自分以外は誰もいるはずはないのに、暗闇の中で何かの気配がするんだ。それが自分のほうをじっと見ているような気がする。おじいさんがおそるおそる足のほうを見ると、そこには白い手がぼうっと浮かび上がって、足首をつかんでいるんだ。つかんだ手の跡があとではっきりと足首に残ってるくらい、ぎゅっとな。それはおじいさんの耳元で誘い込むように、おいで、おいでって何度も囁くんだ。一緒においでって……。もちろん、おじいさんはそんなとこいきたくない。返事をしたら、どこに連れていかれるかわからないからな」  今回の話は、いつものひーくんのつくり話とは違う気がする。  ほっとして正面を向き、ふと背中に誰かの視線を感じて振り返った。そのとき、誰もいないはずの二階の窓にかかっていたカーテンが微かに揺れた気がした。  みーん、みんみんみー。みーん、みんみんみー。  突然、蝉の泣き声が大きくなった。  じっとしているだけで汗ばむ暑さなのに、冷たい汗がぶわりと噴き出した。 「どうした、みひろ?」  あたしはぶんぶんと頭を振った。そうしている間にも、誰かがじっと見つめている気がする。けれど口にするのは怖い。口にしたら、ひーくんのつくり話がほんとうになってしまうかもしれない。 「へんなやつだな」  繋いだ手にぎゅっと力を込めたあたしに首をかしげながら、ひーくんはのんきなようすで「暑いなー」と呟いた。
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