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どうしよう、眠れなくなってしまった。
薄明りの部屋の天井を見つめながら、あたしは枕元のクリストファーロビンをぎゅっと抱き寄せた。豆電球の紐の先からつるした東京タワーの置物の影が天井に映って、月に着陸したロケットみたい。目を閉じると、昼間のひーくんの話を思い出してしまって、あたしは泣きそうな気持ちで何度も目をしばたいた。
ひーくんはうそつき。ひーくんはうそつき。ひーくんはうそつき。
蒸し暑いタオルケットの中で、あたしは何度も呪文を唱える。
――あのな、あそこん家のじーさんが、ある晩、寝苦しくて目が覚めたんだ。そしたら何かが胸の上にずっしり乗ったみたいに体が動かない。声を出して誰かに助けを求めようとしたけど、声も出ないんだ。
胸がドキドキと鳴った。あたしは敷布団とタオルケットの隙間から、そうっと顔を出した。薄いカーテンの向こうでは、木の枝が不安そうに風に揺れている。そのとき、パシリ、と木の枝が割れるような音がして、あたしはびくっとした。
――そしたらな、自分以外は誰もいるはずはないのに、暗闇の中で何かの気配がするんだ。それが自分のほうをじっと見ているような気がする。おじいさんがおそるおそる足のほうを見ると、そこには白い手がぼうっと浮かび上がって、足首をつかんでいるんだ。つかんだ手の跡があとではっきりと足首に残ってるくらい、ぎゅっとな。それはおじいさんの耳元で誘い込むように、おいで、おいでって何度も囁くんだ。一緒においでって……。
ひゃあっ。
あたしは勢いよくタオルケットを跳ねのけた。隣のベッドですやすやと眠るまいを横目に見て、クリストファーロビンをぎゅっと抱きしめながら、パパとママの寝室へと向かう。
そうしている間にも、後ろを振り返ったら、何かにぎゅっと足首をつかまれそうだ。
ドキドキと心臓が早鐘を打っている。窓に映るあたしの後ろに、何かが映っていたらどうしよう。
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