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(天の助け?)
後光が差している様に見えた。
「は、はい」
男性の差し出した手を取ろうとした瞬間、
手をのばしたハズだった
ニブい音を立てて、前のめりになった体が、叩きつけられる
掴んだのは温もりのある手の肉ではなく
ザラついた、固い地べただった
(エ?え?エエ――――ッ??!!!)
たった今親切そうな笑みを浮かべていたスーツ男が、自分のカバンを掴んで走っていた。
まったくの予想外過ぎる展開に、瞼を開いたまま思考も手足も、すべての動きが石になった。
数秒遅れで、頭は柔軟さを取り戻し、追いかけなければ、つかまえなければ、と衝動が走るのに。
カラダは地べたに這い蹲ったまま。もがいてもズキリと膝が痛みを発するだけだ。
「ひったくりィ―――――ッッッ!!!!!」
匍匐前進体勢のまま力の限り叫んだ。
なんて人生最悪な日なんだ今日は!!
「まてぇ―――!!!返せぇ―――!!!バカヤローーーーーー!!!!!」
体は思うように動かないのに、口だけは、ばんばん動いた。
居酒屋で昇華しきれなかった鬱憤の残りがそうさせたっぽい。
叫ぶ間にも、ひったくりの姿は小さくなっていく。
親切な人と思った自分が情けない。
カバンにはサイフが入っている、銀行のキャッシュカードだって入ってる。
明日からどうすれば?!!生存危機感が走馬燈となる。
目の中心が熱を持つ。
熱の重みで耐えきれず、目玉の縁を決壊させ、水分が噴出した。
喉奥が風邪で腫れたみたいに痛くて、上唇から流れ込んだしょっぱい水分が焦げ沁みる。
アタマが割れそうな絶叫は、微弱な喧噪の塊に吸い込まれていく。
群れを割って走るスーツ男に、カオを向けはしても、ただ流れていく。
ぶつからずに 平行に 流れていく
不規則な止まらない空気が、可奈の左頬を掠め続けた。
視界は完全に涙の底へと落とされ、暗さと光だけの判別のみになった。
激情が脳と喉と突き上げる。
一陣の風が濡れた頬の熱を奪って行った。
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