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「ダイジョウブですか?」
穏やかな声音に周りの音がすべて遮断される。
今居る空間に、この人物とふたりきりでいるような錯覚さえ起こした。
夜の空気に乗って鈴蘭の香りが運ばれる。
(映画スター?)
そう思う程の甘いマスクのイケメンだ。
お古みたいなキャップのつばで影になっているけど、ヘーゼル色の優しい大きな瞳に、くっきりと筋の通った高い鼻。
(なんかおっきいし、ガタイいいんですけど!!)
チャコールグレーのTシャツから伸びる、長く筋肉質の腕。
膝を折るのが大変そうなブラックデニムの脚。
履き古した感満載の大きいサイズの黒いスニーカー。
曲のある金髪を後ろで、ゆるく縛っている。
金髪の青年は、可奈のぶちまけた私物を拾い、取カバンに入れ始めた。
そんな何気ない所作でさえ、スマートに見えてしまう。
恰好は適当な感じなのに、どことなく上品な・・・、貴族的な雰囲気を感じる。
(王子様って言ったらこんな感じ?)
アルコールは姿を潜めたが、余計に惚けてしまった。
青年の白く長い指先が、転がってる口紅に触れた。
青いバタフライが舞っている黒地のボディ―――。
反射的に顔を逸らしてしまった。
「ダイジョウブですか?お手をドウゾ」
カバンの中身を仕舞い終えると、金髪の青年は跪いたまま、ふわりと手を差し出した。
(わたしの手なんかすっぽり収まっちゃいそう)
さっきのひったくりスーツ男よりも、ずっと大きな掌。
―――しかし、素直に手を取る事が出来ない。
この金髪の青年は本当に親切なひとだと言うのは、明らかだが。
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