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「脚、ケガしたんですか?」
やや上体を傾け、金髪の青年は、地面についたままの可奈の膝頭を見て言う。
地面の隙間からストッキングに滲む赤い色が覗いている。
すっかり転んでいた事を忘れていた。
思い出したら、膝はまたじりじりと痛さを主張してきた。
(痛いなぁ・・・。それに、すごい間抜け。地面からイケメンを見上げるって・・・)
「シツレイします」
「ひゃあッ」
脇腹に大きな手が触れ、じんわりと熱が沁み込む。
金髪の青年は可奈にカバンを手渡すと、彼女のすぐ横に回った。
ふわり、鈴蘭の香りに体が持ち上げられ、無重力になったかと思った。
なんか・・・ こう 御伽話なんかで、王子さまがお姫様を持ち上げるのを、体験している気分―――。
背中に逞しい胸板を感じていると、けたたましいサイレントともに、赤色灯が近づいて来た。
野次馬の誰かが呼んだのだろう。
人が助けを求めてるときは何もしてくれなかったくせに、こうなると合コン参加者希望者の如く群がる。
どうやら、ひったくりスーツ男も伸びたまま野次馬に取り囲まれているらしい。
金髪の青年とやり合った場所に人だかりが出来ている。
(あーあ、この後ケーサツ行かなくちゃいけないのかな・・・)
そんな事を考えていると、また体が無重力状態になり、今度は目線が高くなる。
いつも自分が見ている視界よりも高い。
「え、えッ?!!」
状況を理解する間もなく、野次馬の群れから遠ざかっていく。
(こんな軽々と!この人、相当力強い!!?じゃなくて!!)
これはお姫様抱っこ。
そう言えば聞こえはいいけれど、見知らぬ相手が自分を抱きかかえて、そのまま走り去るのは、誘拐以外なんの理由があると言うのか?
(やっぱり、悪い人かーーー!!!)
さっきの捕り物と言い、じぶんを簡単に横抱き擦る腕力と言い、どうやっても非力な女である自分になす術はないと思った。
(どうせ攫うんなら、もっと金持ちにしてよぉッ!!月給そこそこのOLなんか攫わないでぇッ!!)
無神経なシャッター音の群れを振り切って、可奈を抱きかかえたまま青年は走り去った。
「なになに今の~?」
「すごかったー、撮影?」
多くがそんな感想を漏らす野次馬。
そう、それなら何も気にする事はないのだ。
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