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「あ、あのぉッ!!」
パニックが少しなりを顰めて、可奈は声を発した。
(このまま抱っこされたままってヤバイ!!)
「・・・っ、ア、スミマセン」
金髪の青年はハッとしたように立ち止まる。
曲がっていた腰が、やわりと伸ばされ、自分がいつも見ている景色の高さに戻る。
宙に浮いていた足の裏が地面を触ると、淡い熱が夜風に掬われていった気がした。
止まった場所は住宅街で、人通りも少なく、街灯も無いに等しかった。
音もないし、考えようによっては、巨大な密室にいるようなものだ。
(な、なに?まさか、痴漢?)
「さ、さっきは助けてくださってありがとうございました」
助けてもらった事に変わりはない。本来なら一礼すべきなんだろうけれど。
「ドウいたしまして、大したことではナイです」
「―――・・・っ」
ほんの少し目尻が下がって、穏やかそうな表情が更に柔らかくなる。
酔いが褪めた筈なのに、体温が跳ね上がった。
改めて、まじまじと見上げてしまった。
暗いせい、で尚更よく見ようと思っているからでもある。
その甘いマスクの輪郭を、僅かな街灯でぼんやり暴いた。
緩く束ねられた癖のある金髪に、ヘーゼル色の瞳。
筋の通った高い鼻に、少し彫の深い顔立ち。ただ立っているだけでも、優雅さが漂っている。
丁度顔の高さが胸のあたりで・・・。
Tシャツにデニムという恰好なのに、この素材の良さのせいで、めちゃくちゃ絵になっている。
とは言え、初対面の外国人。
例え日本人でも、助けてくれたからって良い人とは限らない。
そもそも、ただの親切心なら、どうしてじぶんを抱きかかえて走り去ったのか?
警察が来た途端逃げ出すなんて、きっとやましい事があるに違いない。
今日は色々と人生最悪の日なのだ。度重なる嫌な出来事に防御意識が過敏になる。
これは、さっさと関りを断ち切った方が安全だ。
「では、わたしはこれで」
今度は一礼すると、可奈は膝頭をずきずきさせながら、青年から離れた。
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