第1章

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長い体躯を屈めて青年は玄関ドアを潜った。 「あっ、靴は脱いでーーー・・・」 ハッと振り向きつつ言いかけるが、既に青年は脱いだ靴を揃えて端に寄せていた。 (あのバカとはエライ違い・・・) 「ただいまー・・・って言ってもだれもいないけど」 感心しながら、向き直り、虚しく帰宅の挨拶をする。 「お帰りなさい」 背後からの、やわらかい男性の声に思わず振り向くと、青年が柔和な笑みを返してきた。 顔から熱が噴き出すのがアリアリと分かって恥ずかしい。 「・・・た ただいま」 ふたり横に並べば、身動き取れないキッチンとシャワールームに挟まれたスペース。 ひとりならば気にしないが、鈴蘭香る青年によって、この部屋の狭さを痛感していまう。冷たい筈のいつもの部屋が温かく感じて、 「カナ、さんは、ずっとココに住んでるんですか?」 「んぇあッ、うん。大学通ってる頃からね。職場にも近いし、家賃ソコソコでシャワーとトイレ別だし」 築年数も新しいし、オートロック。 ・・・初対面の男を連れ込んでて、防犯もへったくれも無いが。 「ちょっと奥で待ってて。ここだと狭いし」 パチンと、電気を点けて、奥の部屋へと彼を誘導する。 「ハイ、シツレイします」
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