第1章

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玄関入ってすぐ右側の小さなシンク台と卓上電磁調理器は、殆ど使った気配がない。 備え付けの棚には花柄のふきんが敷かれ、コップとマグカップ、箸、スプーン、フォークがひとり分だけ置かれていた。 シンクのすぐ下を陣取っている市区町村指定のごみ袋には、缶ビールに缶チューハイの空き缶。 もうひとつの袋には綺麗に洗って乾燥させたコンビニ弁当やスーパーのお総菜の空き容器が入っていた。 可奈は青年が移動したのを見て、玄関入ってすぐ左のシャワールームの中折れタイプの扉を開け、中に置き忘れた物がないかを確認した。 部屋に男がいるなんて、少し前だって同じ状況だったのに。 顔と体が熱くなるのを感じた。 青年は静かにオレンジ色のライトに照らされている部屋へと歩み入った。 カーテンレールには洋服が掛かったままのハンガー。 6畳のフローリングには、花の形をしたラグマットが敷かれていて、その上にガラスのテーブル、花柄のクッションが置かれた二人掛けのソファ、テレビが置かれている。 女性らしい家具が配置された中に、また、ごみ袋が鎮座する。 男物らしき洋服の上には、人が映ってるらしき破かれた紙が、ふりかけみたいに乗っている。可奈と同じ髪色が端に見える。 「取り敢えずシャワー浴びて、そしたら怪我手当するからね」 「アリガトウゴザイマス」 可奈の声に青年は振り返り、差し出されたバスタオルを受け取った。 と同時に可奈はシャワールームから死角になる壁に隠れた。
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