第2章

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「…全く、あの方は」  大きな溜息と共に、呆れた声が降って来た。 (あの方?)  厳つい男から聞きなれた言語が発せられた。誰の事を言っているのだろうと硬直する意識の中、僅かな思考が巡る。 「先刻は大変失礼致しました。あなたを、奴らの協力者と思ったもので」    奴ら? 協力者? 単語自体の意味は理解できても、一体何の事を言われているのか分からず、変に緩んだ思考のせいで気持ちの不安定さが増した。 「ともかく、こちらへ。事情をお話致します」  紳士的な対応に、少し警戒心が薄れる。取り敢えずは身の危険はなさそうに思えた。    部屋屋を出ると、博物館っぽい精錬で頑丈な空間が広がっていた。  前後を黒スーツの大男二人に挟まれ、圧迫感で居心地が悪い。  可奈は肩を強張らせ、俯きながら足を動かした。  コツコツと固い床に足音だけが響いて、動く牢屋の中に居る気分になった。  暫く歩くと靴音が籠る深紅の絨毯へと変わった。壁には金色の額縁に大きな絵画が飾られている。 (高そう…。いくらするんだろ?)  庶民感覚丸出しで眺めた油絵を流し見た。  絵画の他にも、天使を象った置物などの美術品や調度品が並べられている。 (美術館?)    いや、それにしては似合わなさ過ぎな連中に囲まれている。  今さっき脳内に再生された最悪な結末が過る。  絶望で重たくなった頭を倒しながら、機械的に歩みを進めた。 「わ、ぶゅっ」    どすんと目の前の固い背中に顔がぶつかった。 「ちゃんと、前を向いて歩いてください」  顔を摩っていると、堅苦しい声が頭頂部に当たった。 (なにコイツ)  偉そうで嫌味な感じが気に喰わない。  思いつつ抵抗したらヤバそうな為、顔に当てた指越しに岩みたいな背中を睨み付けて我慢した。  厳つい男はかしこまった佇まいで、重厚な扉を4回ノックした。  中から「どうぞ」と言う声がして、男は扉を開けた。 「どうぞ。お入りください」  男は開ききった扉を押さえて、可奈に部屋の中へ入る様に言った。 (何のつもり?)  警戒心丸出しで見上げると、早くしろと言わんばかりに睨み返されてしまい、縮みあがりながら、可奈はぎこちない動きで室内へと足を踏み入れた。
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