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「…全く、あの方は」
大きな溜息と共に、呆れた声が降って来た。
(あの方?)
厳つい男から聞きなれた言語が発せられた。誰の事を言っているのだろうと硬直する意識の中、僅かな思考が巡る。
「先刻は大変失礼致しました。あなたを、奴らの協力者と思ったもので」
奴ら? 協力者? 単語自体の意味は理解できても、一体何の事を言われているのか分からず、変に緩んだ思考のせいで気持ちの不安定さが増した。
「ともかく、こちらへ。事情をお話致します」
紳士的な対応に、少し警戒心が薄れる。取り敢えずは身の危険はなさそうに思えた。
部屋屋を出ると、博物館っぽい精錬で頑丈な空間が広がっていた。
前後を黒スーツの大男二人に挟まれ、圧迫感で居心地が悪い。
可奈は肩を強張らせ、俯きながら足を動かした。
コツコツと固い床に足音だけが響いて、動く牢屋の中に居る気分になった。
暫く歩くと靴音が籠る深紅の絨毯へと変わった。壁には金色の額縁に大きな絵画が飾られている。
(高そう…。いくらするんだろ?)
庶民感覚丸出しで眺めた油絵を流し見た。
絵画の他にも、天使を象った置物などの美術品や調度品が並べられている。
(美術館?)
いや、それにしては似合わなさ過ぎな連中に囲まれている。
今さっき脳内に再生された最悪な結末が過る。
絶望で重たくなった頭を倒しながら、機械的に歩みを進めた。
「わ、ぶゅっ」
どすんと目の前の固い背中に顔がぶつかった。
「ちゃんと、前を向いて歩いてください」
顔を摩っていると、堅苦しい声が頭頂部に当たった。
(なにコイツ)
偉そうで嫌味な感じが気に喰わない。
思いつつ抵抗したらヤバそうな為、顔に当てた指越しに岩みたいな背中を睨み付けて我慢した。
厳つい男はかしこまった佇まいで、重厚な扉を4回ノックした。
中から「どうぞ」と言う声がして、男は扉を開けた。
「どうぞ。お入りください」
男は開ききった扉を押さえて、可奈に部屋の中へ入る様に言った。
(何のつもり?)
警戒心丸出しで見上げると、早くしろと言わんばかりに睨み返されてしまい、縮みあがりながら、可奈はぎこちない動きで室内へと足を踏み入れた。
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