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「初めまして、松浦さん。私は在日レリーチェエルデ大使館のアボットと申します」
ミハイルの傍に立っていたスーツ姿の外国人から、丁寧な仕草で名刺を差し出された。
もう、石化するしかない。
ここは、在日レリーチェエルデ大使館です、と言うアボットの声が遠くに聞こえた。
(嘘でしょ!? このイケメンさんが王子様?!!)
「で、でもっ…!! このひと、警察嫌だって…」
じぶんに噛り付いて離れない青年を人差し指で差し示す。
「今回はプライベートでの極秘の来日でした。念の為、専用に作った民間人パスポートで入国致しました。」
驚きで興奮する可奈を余所に、厳つい男は説明を続けた。
「外務省レベルでは通っていますが、警視庁に通してある話ではありませんので。記憶を失くされているとはいえ、咄嗟に警察に行くのは好ましくないと思われたのでしょう」
(それって偽造パスポートじゃ? 国家規模になると全てが国家機密扱いで合法かい)
納得のいかなさを感じつつ、声に出さない様に押し込んで、さっきの厳つい男への不満に上乗せした。
「医師の話を耳に挟まれたと思いますが、ミハイル様はご自分が何者であるか、一切覚えておりません。MRI検査でも、脳内に異常は見られませんでした。しかし、私共の事も覚えておらず、警戒されています」
厳つい男がちらっと見ると、ミハイルは肩を竦めて更に可奈にしがみ付いて来た。彼の震えが振動して胸がきゅうっとして来た。
「そりゃ、イキナリ突撃してきて、覚えてなきゃ怪しむわよ」
少しでも気持ちを和らげてあげたくて、大きな背中を撫でた。
「二度の襲撃に遭い、殿下は精神的に混乱されております。ですので、大変不本意ながら、貴方には殿下とご婚約して頂きます」
婚約? 今、目の前に立ってる厳つい大男は婚約と言ったのか?
見知らぬベッドで目覚めてから、精神の上がり下がりが極端過ぎて、常に頭が大なり小なり混乱している。
鳩が豆鉄砲を喰らった状態から、徐々に真っ白な思考がぐるりと動き、言葉を理解して、感情が声になった。
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