第1章

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唖然としたような、おじさんの声に、店内のテレビ画面に頭を向けた。 『たった今速報が入って来ました。 先ほど午後8時頃、渋滞の車の列に後ろから来た車が突っ込みました。 追突された車の運転手、助手席の男性、後部座席に乗っていた男性二人と、追突された車の前にいた、黒い車に乗っていた五人が病院に運ばれましたが、いずれも命に別状はないそうです。その他詳しい事は追ってお知らせいたします』 店内に居る全員が、アナウンサーの緊迫した言葉に釘付けになっていた。 (ふーん) 可奈はアナウンサーの声を流し聞き、すぐに大ジョッキへと意識を戻した。 「すいませぇーん、大ジョッキ追加でぇ―――!!!」 口と手が一時停止した客の多い中、ろれつが怪しくなってきた可奈の声は、いやに大きく反響した。 (あー、もう飲みたんないぃ・・・) 真っ赤な顔をしながら、通勤用バッグ片手に千鳥足。 火照った体に夜の風が気持ちイイ・・・。 コンビニ寄って、缶ビールとチューハイ買って・・・。あー、明日の朝ごはんも買ってこうかな、そんな事をぼけーっと思いながら、可奈は地に足が付かない状態で、点滅する電柱の灯りの道を進んだ。 暗い縦割りの入り口から差し込む煌びやかな光に躊躇が沸いたが、パンプスで境界線を越えた。 路地裏から大通りに出ると、一気に別世界へ足を踏み入れた気分になる。 週末という事もあり、カップルだらけの雑踏。 イルミネーションみたいな道沿いの店舗照明にすら苦さが逆流する。 『オマエはひとりでも平気だろ!!』 『出世の先払いだよぉ、後々ちゃんと引き立ててあげるから!!』 「ふざけんなぁ!!クソヤローどもがぁあああああああ!!!」 フラッシュバックの雑音がアルコールの奥底へと、沈み込まされた怒りを表層意識へと一気に上昇させた。 大いに撒き散らした激憤に、ピンク色を飛ばしているカップルの視線は冷ややかだ。
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