第1章

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はぁっはぁっ、と可奈は肩を大きく上下させ呼吸した。 ・・・叫び過ぎた。 アタマがくらくらする。 通りすがりの人々がビクッと肩を震わせ、直後に白い眼を向けながら通りすがって行く。 「やだ、こわーい」「あんなだから男いねーんだよ」 遠巻きに、ひそひそと聞こえて来る声が、小さくグサグサ刺さる。 すぐ横の高級ブランドのショーウィンドウに手を当てて、ずるずるとしゃがみ込んだ。 タイトスカートから出ているストッキングが伝線するかなんて、もう知るか! 好奇の目だけを注ぎながら、カップル行進は過ぎていく。 邪魔だよな、サイアクー、って声も聞こえる。 じゃあ、警察でも呼べば?って抗議は、残りのアルコールに喰われた。 惨めついでにその辺に蔓延るカップルに眼を飛ばしてやった。 なんかキレイ系の女子やゆるふわ系の女子ばっかり。 (どうせわたしはどっちにも当てはまんないっつの!) 首を傾げれば、丁度メイク直しにお誂え向きの濃紺のドレープがディスプレイされている。 重たい瞼で半分サイズになった泳ぐ目と熱赤の頬が映っていて。 化粧崩れした、女子力のカケラもない見飽きたカオ。 『キツイ』 『カワイくない』 別に美人系でもないし、可愛い系でもない。 至ってふつうの、見るからに日本人的な顔立ち。 お洒落は人並みに気を使ってはいるけど、どうにも癒し系な、乙女チックな服装は昔から似合わない。 小学校の卒業式で着る様な白いブラウスとブレザーの上下。 その延長線上にあるコンサバ系。 そりゃ、時々はみ出してみたりもした。 ふんわり きらきらした お姫様みたいなカッコに。 どっちがオンで、どっちがオフだか判りゃしない。 『仕事着でデートかよ、萎えるわ』 でも、CAみたいに洗練された独特の華のあるスタイルには、逆立ちしたってなれはしない。 こげ茶色の瞳を縁取るツリ気味の瞼は色白く怜悧さが漂う。 その分、ちょっと眉を寄せただけで、怒ってるの?と言われる始末だ。 セミロングの髪はアッシュブラウンに染めているが、直毛でこれまたお堅い印象。 いわゆる“有能”キャリアウーマン系。 まだ“キャリア”、の域には達していないけれども、 そういうのが好みでない男がうじゃうじゃいるのも事実だ。
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