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50歳前後の紳士然とした好漢だった。
「どちら様でしょう」 恒子は見知らぬ来訪者に困惑していた。
「理事長の大学の後輩で、井沢 晃です」 井沢 晃は笑って一揖した。
井沢 晃は偽名で本名は諏訪 純60歳だった。秘書の青木悠子が先ほどアポがないので面会を断った男だった。還暦には、とても見えない。どう見ても50歳前後にしか見えない。一見して判るハイグレ-ド濃紺の高価なス-ツを着衣して端正なマスクに七三に整髪された頭髪スタイルは大企業のエグゼクティブといったフィ-リングだった。恒子は葛西理事長の後輩だと名乗った男を素直に信じた。諏訪の雰囲気は誰だって恒子と同じ感情を抱く、素直に信用するだろう。
「西谷さん葛西先輩はランチですか?」 諏訪は微笑した。諏訪は入室した時、西谷恒子のネ-ムプレ-トを確認していた。
「はい!ランチです」 恒子はデジャビュ?ファニ-な均分になった。
「先輩が戻って来るまで、そこのソファ‐で座って待ってます」
「理事長はスマホをお持ちでないので、お伝えしてきましょうか?」
「結構です。ゆっくりランチを・・」
「はい・・」 恒子は井沢 晃に好漢をもった。
「有り難う」 諏訪はフレンドリ-10年の知己の様に微笑した。
葛西尚人は1時30分頃ランチから理事長室に戻って来た。理事長の葛西の在室を証明するクリ-ム色のランプが秘書室に点灯している。
「井沢様、理事長がお戻りになりました。ご案内いたします」
「恒ちゃん!僕一人で、びっくりさせて」 井沢は苦笑した。
諏訪は恒子を掌で制して、ウインクしてソファ‐から立ち上がった。そして秘書室から理事長室に続くドアをノックして理事長室に入室した。理事長の葛西はデスク上の書類を披見している。
「葛西理事長!大事なお話があります」 男の声で葛西は顔を上げた。上げた葛西の顔が、きょとん?として驚愕と困惑をミックスした様なフィ-リング表情をしている。だが何故か?その男に違和感や嫌悪感は湧いてこなかった。
「彼方は何方ですか?」 葛西は背筋を伸ばし襟を正して尋問した。
「お初にお目にかかります」 諏訪はカ-ドケ-スから名刺を出した。
葛西は諏訪から渡された名刺を見た。名刺にはNPO日本弱者支援協会‐代表‐諏訪 純と印刷されていた。
「NPOの方が何故?私どものところへ?」
「じつは理事長に是非!お力添えをお願いしたくて参りまいた」
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