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「はっ、いや、それは」
「なんだ。女も酒も、嫌いではないだろう」
返答しかねるように目をさまよわせる隆敏を眺めながら、自らの発言に「それも良い案だ」と宗明は胸中で頷いた。
「よし、では領内に通達をせよ」
「何を、で御座いますか」
「見目麗しき娘なら、身分を問わずに買い上げる、と。隠居屋敷に仕える者を雇わねば。下男など、信用の置ける者も集めねばならんな。この屋敷で働いている者はそっくり、成明に引き継がれるのだから」
はっとした隆敏が、平頭する。
「承知、致しました」
頷き、目を窓の外に向ける。ぽかりと浮かんだ月は、欠け始めていた。
――佳枝。
自分の妻であり、国主の末娘であり、成明に想いを寄せる娘の名を、姿を、宗明は月に浮かべた。
***
通達があってからほどなくして、宗明の隠居屋敷は完成した。監視下に置くためということか、領主屋敷より馬で半日、という立地に移動した宗明は隆敏と共に移り住んだ。華美ではなく、かといって質素でもないそこには、見目麗しき娘を中心とした下女がそろい、下男もそれに見合うようなものが揃えられていた。
「なるほど。これなら色に溺れたとの噂も、立ちそうなものだな」
立ち働く者たちの姿を眺めながら、裏庭の山水に床几を置き、茶を飲む宗明の安穏とした口調に隆敏が目を細める。
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