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「隆敏には、俺の手伝いもしてもらいたいところだが、兄上から隆敏まで奪っては、兄不幸もいいところだ」
声を立てて笑う成明に、苦虫を噛み潰したような顔をする隆敏を、ふふ、と宗明が笑う。
「しかし、ずいぶんと美麗な者たちばかりを集めたな。連れてきた者たちが、夢の中に居るような顔をしていたぞ」
「女衒に売るくらいならばと思った貧困な出自の者や、地位のあるものに見初められるのではと夢見る者たちが、領内には多かったということだ」
「それでは、兄上は大変だな」
「うん?」
にやにやと、成明が顔を寄せて耳打ちをする。
「兄上の手付けになったら、領内では上位の地位に入ることになる。夜這いをされないようにな」
「隠居をした身であるのになぁ」
「俺の甥を生めば、自分が領主の母になる可能性も出るだろう」
ふう、と胸に溜った空気を吐き出し、宗明は目を閉じて天井を仰いだ。
「なんとも、厄介なことだ」
「そういう世界は、俺のような野蛮で単純な者には窮屈でしかないんだがな」
「領主になってしまったからには、致し方あるまい」
「まったく、面倒なことになった」
気安い会話をする二人の空気が変わっていないことに、隆敏は深く息を吸った。
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